- 遺言ができる条件は
→15歳以上
→遺言するのに必要な「遺言能力」があること - 認知症の人が作成した遺言が有効か無効かはケースバイケース
→健康なうちに遺言することが大切!
認知症の人が作成した遺言は有効か?無効か?
結論から伝えると、これは一概に断言できるものではありません。
遺言者が認知症だからといって、すべての遺言が無効になるわけではないためです。
(認知症で「意思能力がない」と判断されれば、いくら遺言書があっても無効になります。)
遺言が有効か無効か、その判断において最も重視されるのが、遺言者に「遺言能力があるかどうか」です。
「遺言能力」とは聞きなれない言葉かもしれませんが、文字通り「遺言書を書くに足りる能力」のことです。
具体的には民法の条文でも明記されています。
・15歳に達した者は遺言をすることができる。(民法961条)
・遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。(民法963条)
認知症の場合、特に後者の963条が関係します。
この記事では、この規定に基づいて、どういう人が遺言をできるのかについて解説していきます。
1.15歳に達すれば遺言することができる(民法961条)
民法上では、15歳から遺言をすることができます。
基本的に未成年者が法律行為をするには、その法定代理人(親権者など)の同意が必要になりますが、遺言は15歳からすることができます。
2.遺言者は遺言能力を有している必要がある(民法963条)
前章の民法961条の規定は分かりやすいのですが、問題はこの民法963条です。
この「遺言能力」について具体的に明記されておらず、認知症の人が遺言することができるかどうかの判断を困らせている部分でもあります。
もうひとつ規定をご紹介すると、民法には下記の記載があります。
民法973条
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
※成年被後見人とは、認知症など「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」で、家庭裁判所に申立てをして後見人が付いている人のことです。
成年後見の申立てをし、本人が「成年被後見人」となった場合には、上記に基づき医師2人以上の立会いがあれば遺言をすることできることになります。
では、認知症であっても成年後見の申立てをしていない場合は、遺言をすることができないのか?
というと、必ずしもそういうわけではありません。
やはり、その遺言書を作成する時点で「事理を弁識する能力(自己の行為の結果を理解できる精神能力)」があるかどうかが判断のポイントになります。
遺言者の遺言が有効か無効か、判断するのは最終的には裁判所です。
例えば、無事に公正証書遺言を作成できたとしても、その前後の遺言者の状態から認知症の疑いが浮上し、結果的に「無効」とされた事例もあります。
一方、認知症の症状が進行していたとはいえ、(遺言内容からも)遺言能力が認められた事例もあります。
このような判例からも、一概に「認知症=遺言は無効」とは断言できず、ケースバイケースと言えます。
認知症であっても、「自身の財産をどうするのか」をはっきりと認識できていれば遺言ができる可能性はあります。
迷われた際は医師に確認し、できれば診断書等を作成してもらうとよいでしょう。
3.まとめ
遺言をするときに重要なポイントは、
- 「遺言者が、自身の財産をどうしたいか」ということ
- 遺言者自身が、それをしっかりと認識していること
です。
遺言は「遺言をする時に、その能力を有しなければならない」ため、認知症などで遺言能力に疑いが出る前に、遺言書を作成することを強くお勧めします。
遺言当時に遺言者に認知症の疑いがあり、その遺言内容に不服のある相続人や受遺者がいる場合、裁判で遺言が有効か無効か判断してもらう必要が生じます。
「まだ元気だし大丈夫」ではなく、元気で大丈夫なうちにできるのが遺言なのです。