相続のお手続きに関するご相談の中でも、最近特に増えているのが年金についてのご相談です。
年金の相続手続きについては、
- 年金を受け取っていたかどうか(給付が開始していたか)
- 加入していた年金の種類(国民年金、厚生年金、共済年金など)
などによってお手続きが全く異なってきます。
今回は「年金を受け取っていた」場合のお手続きについてのご相談です。
目次【本ページの内容】
1.年金を受け取っていた方が亡くなられた場合の手続き
1-1.年金の受給状況の確認
まずは、亡くなられた方の年金の受給状況、加入状況を確認します。
年金手帳または年金証書でご覧いただくことでも確認できますし、年金事務所に問い合わせていただいてもよいと思います。
(※電話確認の場合、本人確認や両者の関係・繋がりが確認できないということで教えてもらえないかもしれません)
そして、年金を受け取っていたことがわかった場合、第〇号被保険者であるかによってその申請期限が異なります。
以下、それぞれのパターンに分けて詳しくご説明します。
1‐2.第1号被保険者の場合
あまり聞き慣れない言葉かと思いますが、第1号被保険者とは、国民年金に加入していた方です。
もう少しかみ砕くと「日本国内に住む、第2号・第3号被保険者以外の人」と言いかえることもできますが、そもそも第2号と第3号のご説明をまだしていませんので、今は「国民年金に加入していた人」と思っていただければ分かりやすいかと思います。
職業で言うと
- 自営業者
- 学生
- 農業や漁業従事者
- フリーター
- 無職の人
などが該当しますね。
これらの方、第1号被保険者の方がお亡くなりになられた場合の申請期限は14日以内とされています。
具体的な手続きは、お近くの年金事務所または街角の年金事務センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります。
書き方などは下記リンクをご参照ください。(日本年金機構のホームページが開きます)
>年金を受けている方が亡くなったとき
「年金受給権者死亡届(報告書)」の見本と記載例のPDFがあります。
1-3.第2号被保険者の場合
第2号被保険者とは、厚生年金または共済年金に加入していた方です。
厚生年金または共済年金ということは、
- 会社員
- 公務員
などが該当しますね。
第2号被保険者の方がお亡くなりになられた場合の申請期限は10日以内とされています。
第1号被保険者の方(国民年金加入者)
→14日以内
第2号被保険者の方(厚生年金または共済年金加入者)
→10日以内
ですので、くれぐれもお間違えなく。
こちらもお近くの年金事務所または街角の年金事務センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります。
第1号でも第2号でも様式は変わりませんので、書き方などは下記リンクをご参照ください。(日本年金機構のホームページが開きます)
1-4.生前にマイナンバーを登録していれば手続き不要!
なかなか使う機会が少ないマイナンバーですが、生前に日本年金機構に個人番号(マイナンバー)の登録をされている方は、こういった届出の必要はありません。
役所と年金事務所はそれぞれ全く別のものですので、役所に対して死亡届を提出しても年金事務所には別途死亡の連絡をしなければならないのですが、マイナンバーで紐づいていれば、その死亡の事実が年金事務所にも伝わるということです。
期限も短く、普段あまり行く機会のない年金事務所での手続きですので、多々ある相続手続きのひとつでも省略できるのはとてもありがたいですよね。
まだまだ活かせていない個人番号ですが、登録できるところにはできるだけ届出をしておくと便利かもしれません。
2.年金受給権について
2-1.受給権は相続できない
今回のご相談は、3か月前にお亡くなりになられたご主人様の通帳に引き続き年金が振り込まれていたということですので、年金のデータ上はまだ生存していることになっているはずです。
よって、まずはこの「年金受給権者死亡届(報告書)」を早急に提出しなければなりません。
なぜなら、年金は受給者(今回のご相談ではご主人様)固有の権利であって、その受給する権利を相続することはできないからです。
次に、今回振り込まれた年金をそのまま受け取ってよいかというご質問についてですが、答えは…死亡した月と振り込まれた月によって異なります!
…と言われても、これだけではあまり答えにならないですよね、申し訳ありません。
でも、実際そうなんです。
だから一概には判断できないので、これは注意が必要ということですね。
具体的な日付を挙げて、もう少し詳しく説明します。
2‐2.過払いの場合は返還を
まず、そもそもの年金の支給制度について、簡単にご説明いたします。
基本的に老齢基礎年金の受給権は、
- 65歳に達した日→発生
- 亡くなった日→喪失
します。
(※ご自身でその他申請をされている場合はこれに限りません)
これに伴い、65歳に達した翌月から支給が開始され、亡くなった日の「月」分まで支給されます。
例えば誕生日が5月5日であれば、6月から支給開始です。
5月1日でも6月から、5月31日でも6月からです。
死亡日が3月10日であれば、3月分まで受け取ることができます。
3月1日でも3月分まで、3月31日でも3月分までです。
ここまではわかりましたでしょうか?
いつから支給開始なのか、いつまでもらえるのか、年金制度の基本の部分ですね。
そして、ポイントはもう一点あります。
ご存知の方も多いと思いますが、年金は2か月に1回、つまり2か月分をまとめて翌月(偶数月)15日に振り込まれる仕組みとなっています。
具体的に申しますと、
12月・1月分 → 2月15日
2月・3月分 → 4月15日
4月・5月分 → 6月15日
6月・7月分 → 8月15日
8月・9月分 → 10月15日
10月・11月分 → 12月15日
に振り込まれるということです。
(年に6回の支給があるということですね)
では、今回のご相談者様はこの振り込まれた金額を受け取ってよいのか、について検証します。
亡くなりになられた日を確認しましたところ、5月27日とのことでした。
ここから分析して考えてみますと、5月27日が死亡日ということは5月分まで受給権があり、本来受け取るべき年金は4・5月分が振り込まれた6月15日分までです。
しかし、「年金受給権者死亡届」を提出していなかったので、6・7月分が8月15日に振り込まれてしまったというわけです。
よって、この8月15日分は受け取ることができない「過払い分」であることが分かりました。
このような場合には、年金事務所に連絡をし、返還手続きをする必要があります。
3.罰則に注意!
今回のご相談にありました「一度受け取った年金、返さなくても…」というご相談も時々お聞きしますが、本来「受け取れないお金」であることはもちろんのこと、下記のような罰則も法律で決められていますので、手続きはきちんとしましょう。
<不正受給>
偽りその他不正な手段により給付を受けたもの
↓
3年以下の懲役又は100万以下の罰金
<虚偽の届出等>
資格の得喪等、虚偽の書類提出や申述
↓
6か月以下の懲役又は30万以下の罰金
<無届等>
資格の得喪等
↓
30万以下の罰金
4.未支給年金について
4-1.未支給年金とは
また、逆のケースで、本来受け取るべき年金を受け取っていないというケースが生じる場合があります。
これが「未支給年金」と呼ばれるものです。
未支給年金が起こりうる原因として、2つ考えられます。
①そもそもの年金受給手続きをしていない
日本は「国民皆年金制度」ですが、各種手続きは自動的にはされません。
受給権が発生したときにはご自身で届け出なければならないのです。
よって、年金はきちんと納めていたが受け取る手続きをしていなかった場合に未支給年金が発生します。
但し、こちらに関しては5年で請求権が消滅してしまいますので注意が必要です。
②支給日前に振込口座を解約(もしくは凍結)してしまった
先ほど申しましたように、年金は該当する2か月分が翌月15日に振り込まれます。
もし12月3日に亡くなり、銀行口座の相続手続きを1月20日に完了している方がいたとします。
この方の場合、12月分まで年金を受け取ることができるわけですが、この12月分の年金は翌年の2月15日に振り込まれます。
しかし、振り込むべき口座が相続手続き完了によって失くなってしまっていますので、当然振り込むことができません。
12月3日:死亡
↓
1月20日:銀行手続き完了
(この時点で口座は存在しなくなります)
↓
2月15日:12月分の年金振込予定日
このように、本来受け取る権利があるものの、受け取ることが出来なかった年金が未支給年金です。
日本年金機構は定期的に年金の納付や支給状況をチェックしているので、未支給年金が発生している可能性がある場合は相続人宛に通知が来ることが多いようです。
(当センターでも何度もそのようなお手紙を拝見しております)
もし、この通知があった場合、年金がきちんと振り込まれているのか、実際に未支給年金が発生しているのであれば、上記①②どちらの場合に該当するのか確認することが大切です。
金銭管理は全てご主人様(または奥様)に任せていたので状況がわからない…という方は、まず年金事務所に確認しましょう。
4-2.受給するには優先順位と要件を満たしていること
では、未支給年金が発生した場合、必ず誰かが受け取れるのかというと…答えはNOです!
未支給年金を受け取る(申請をする)には、下記の要件を満たしている必要があります。
【未支給年金を受け取る要件】
配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、または左記の者以外の3親等内の親族のうち、「死亡当時生計を同じくしている者」
文字で見るとさっと読み飛ばしてしまいそうですが、もう一度上記の要件をご覧ください。
「のうち」という文言から敢えて赤色にしているところがポイントです。
つまり、「誰か」という要件と合わせて
死亡当時に生活を共にしている
という要件を満たす必要があるということです。
配偶者の方については生活を共にしているという可能性が高いかと思われますが、お子様の場合、ご結婚などで親元を離れて別に生活をしているということも考えられます。
この場合は請求することができないということです。
また、「誰か」という要件については上記のような親族に限られていますので、いくら「死亡当時に生活を共にしている」方でも、残念ながら同居人にはその権利が与えられません。
例えば、婚姻関係にない内縁のパートナーには権利がないということです。
但し、何らかの事情があって事実婚の関係にあった方は、その証明をすることで権利を得ることも不可能ではありませんが、正直とても厳しい審査をクリアしなければなりません…
そしてこの未支給年金は、受け取る順番も法律で決められています。
【未支給年金の受給権の順位】
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 上記以外の3親等以内の親族
この順に権利があり、該当者がいた時点で、それ以降の順位の人には権利がないということになります。
もし、同順位の方が2人以上いた場合は、そのうち代表者1人が手続きをします。
(例えば配偶者がおらず、子どもが3人いた場合などです)
尚、手続きは代表者1人がしますが、その支給は全額を全員に対してしたものとみなされますので、受け取った代表者が同順位の方に公平に渡すことになります。
この他に、亡くなった方の手続きとは別に、一定の条件を満たす遺族の方に対して支払われる年金制度もあります。
ここでのご紹介、ご説明は割愛しますが、下記にて詳しくご説明しています。
よろしければご一読ください。
このように、年金は加入状況、受給状況、遺族の状況などにより、死亡後の手続きは多種多様です。
必要書類なども含め、事前にお近くの年金事務所または街角の年金事務センターに問い合わせましょう。
<参考ページ>
>年金を受けている人が亡くなったとき(日本年金機構)
(手続き方法がご確認いただけます)
5.まとめ
- 年金を受け取っていた方が亡くなられた場合は、近くの年金事務所または街角の年金事務センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を届け出る。
- 国民年金加入者の場合は14日以内に、厚生年金または共済年金加入者の場合は10日以内に手続きを行う。
- 過払い年金が発生している場合は、年金事務所に連絡をしきちんと返還する。返還しない場合は罰則も。
- 未支給年金が発生している場合は、請求権者が近くの年金事務所または街角の年金事務センターに申請をする。
当センターには年金制度に強い社会保険労務士がおりますので、複雑な年金制度にお困りの際はお気軽にご連絡ください。