公正証書遺言とは、公証役場で公証人が関与して作成する遺言書の種類のひとつ。
- 公正証書遺言の作成の流れ
- 公正証書遺言だからこそのメリット7つ
- 公正証書遺言の作成にかかる費用
自分の財産について、だれに、なにを、どれだけ渡すかを自由に決めることができるのが「遺言」です。
遺言には、大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類あります。
自筆証書遺言とは、読んで字のごとく「自筆で書かれた遺言書」のことです。
予約や費用が発生しないため、思い立ったときに作成したり、時間をかけてじっくり書き留めたりもできますが、書く上で法律上の要件があり、せっかく書いた遺言書が無効になってしまうこともあります。
詳しくは下記記事にて解説しますので、自筆で遺言書を作成しようという方はぜひご覧ください。
それに対して本記事でご紹介する公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与して作成するため、要式の不備で無効になる可能性は極めてゼロに近いです。
そのほかにも公正証書遺言にはメリットがたくさんありますので、この記事では実際にたくさんの公正証書遺言の作成をお手伝いしてきた専門家が、公正証書遺言の作成の流れやメリットなどについて、詳しく解説します。
目次【本ページの内容】
1.公正証書遺言の作成の流れ
そもそも、公正証書遺言は遺言者(遺言をする人)一人で作るものではなく、公証人と呼ばれる全国の公証役場にいる人(公証業務を行う専門家)と一緒に作成するものです。
ですので、自筆証書遺言のように自筆で書くのではなく、遺言者が公証人に遺言の内容を伝える方法によって作成します。
遺言者は自分の財産をどのようにしたいかを決めて、必要書類を揃えて、公証人と打合せを重ねることで手続きが進んでいきます。
そうして遺言書の原案ができると、最終的に公証人と証人の面前で遺言の内容を確認し、完成になります。
自筆との大きな違いは「自分一人でできるかどうか」という点です。
では改めて、公正証書遺言の作成の大まかな流れは下記のとおりです。
それぞれ具体的に説明していきます。
1-1.遺言書の原案を作成する
遺言書を作成するにあたってもっとも重要なこと、それは遺言内容を決めることです。
当たり前といえば当たり前のことなんですが、遺言書を作ることが目的になってしまい、何のために遺言書を作成するのかという本来の目的を見失ってしまっている方もおられます。
(遺言書の作成をすすめる情報が至るところに溢れていますので)
そうなると遺言書の内容が決まっていない状態で作成の準備が始まってしまいますので、まずはもう一度落ち着いて考えて、具体的には
- 誰に:妻、子、孫など(※相続人ではない人も可)
- 何を:不動産、預貯金、株式証券、自動車など
- どれだけ:全ての財産、2分の1、100万円など
といった遺言の内容を考えて、箇条書きでも良いので書き出しておきましょう。
特にこの時点で正確な文章にする必要はなく、遺言者の想いがわかればメモでもなんでも問題ありません。
1-2.必要書類を準備する
公正証書遺言を作成する際の必要書類は、下記の4つです。
必要書類(物) | だれの | 補足事項 |
実印 | 遺言者 | 公正証書遺言を作る当日に必要 |
印鑑証明書 | 遺言者 | 発行後3か月以内のもの |
戸籍謄本 | 遺言者・財産を渡す相手 | ー |
住民票 | 財産を渡す相手 | ※財産を渡す相手が法定相続人以外のときに必要 |
※その他、公証人に支払う手数料も当日現金払いです(詳細は3章に記載)。
※実印以外の書類は、当日ではなく事前の打ち合わせの時に提出します。
どのような内容の遺言書を作成するかによって、必要書類は変わってきます。
(例えば、不動産がある場合はその登記事項証明書が必要になったり、預貯金がある場合は通帳のコピーが必要になったり、公証人によっても様々です)
公正証書遺言の必要書類について詳しく知りたい方は、当センター運営の相続メディアにて解説しています。
下記の記事をご覧ください。
>>公正証書遺言の必要書類│滞りなく集めるための財産別チェックリスト付(まごころ相続コンシェルジュ)
1-3.証人を2人決める
公正証書遺言の作成当日には、2人以上の証人が立会う必要があります。
公正証書遺言は公証人と一緒に作成する遺言書ではありますが、公証人、遺言者、証人2人の計4人で作成することで、よりその安心安全が担保されることになります。
そういった目的での「証人」ですので、以下の人は証人にはなれないと定められています。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)、その配偶者、直系血族
- 公証人の配偶者、4親等以内の親族
- 公証役場の書記官や職員
難しい言葉が並んでいますが、要は、年齢が若すぎる人、遺言者と近しい関係にある人、公証人と近しい関係にある人を証人に選任することはできないということです。
証人が手続きに参加するのは遺言書作成の当日だけですが、平日日中に全員のスケジュールを合わせる必要がありますので、比較的スケジュールの調整のしやすい人にお願いするなどの検討も必要かと思います。
(公証人との相談次第では、夕方の遅い時間でも対応してくれるところもあるかもしれません)
なお、どうしても候補が見つからない、誰にも遺言書を作成することを伝えたくないという場合もあると思います。
そういった場合には公証役場で証人を手配してもらうことも可能ですので、4章のよくあるQ&Aをご覧ください。
1-4.公証人と事前の打ち合わせをする
大まかな遺言内容を決め、必要書類を集めて証人2人を決めると、次は近くの公証役場に連絡をして、公正証書遺言を作成したい旨を伝えて打ち合わせをすることになります。
打ち合わせといってもそんなに何時間もかかるものではなく、
- 必要書類がそろっているか
- 遺言の内容に変更や間違いがないか
- 遺言作成当日の日時や場所
などについて打ち合わせをし、作成当日に向けて公証人と準備をします。
追記した方がよい内容や、こうした方がいいですよという提案もしてくれる公証人もいますので、やり取りの中で遺言内容を煮詰めていく場合は何度も公証役場に行って打ち合わせをすることもあります。
むしろ、費用をかけて作成する遺言書ですので、何度も変更ややり直しにならないよう、ここでしっかり検討しておくことが大切です。
公証人によっては行政書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めされる場合もありますので、そういった場合はお近くの専門家を探して相談し、しっかり内容が固まった上で公証役場に再度行くことになります。
その決定した内容をもとに、公証人が遺言書の案文を作成します。
1-5.公正証書遺言を作成する(当日)
遺言書の案文ができ上がり、日程の調整ができると、いよいよ作成日当日です。
当日の主な流れは、下記のとおりです。
(遺言者、公証人、証人で色分けしています)
- 公証人
→遺言者と証人の本人確認を行う - 遺言者
→公証人と証人の前で遺言の内容を口頭で告げる - 遺言者と証人
→公証人があらかじめ作成した遺言書と相違ないか確認する - 遺言者、公証人、証人の全員
→遺言書原本に署名捺印をする - 遺言者
→完成した遺言書の正本と謄本を受け取り、公証人に手数料を支払う
それほど補足は必要ないかと思いますが、少しずつポイントをお伝えしておきます。
①遺言者と証人の本人確認を行う
遺言者の本人確認ですが、実印と印鑑証明書のセット、もしくは運転免許証(運転経歴証明書)などで本人確認します。
証人は印鑑証明書を用意する必要がないので、免許証や保険証で本人確認します。
②公証人と証人の前で遺言の内容を口頭で告げる
遺言書の内容は口述(口で告げる)が基本ですが、それだと声が出ない人は作成できないことになります。
もちろん他の方法でも可能ですので、4章のよくあるQ&Aをご覧ください。
③公証人があらかじめ作成した遺言書と相違ないか確認する
よく勘違いされるのですが、遺言書作成の当日に公証人が遺言書を書き記したり、その場でパソコンで入力するわけではありません。
事前に案文を作成しておき、当日はその内容で間違いないかどうかを確認する作業になります。
④遺言書原本に署名捺印をする
署名捺印した遺言書の「原本」は公証役場で保管されます。
なお、いつまで保管されるかについては公証役場によりますが、いわば半永久的に保存している公証役場や、遺言者の生後120年間保存している公証役場等があるようです。
(120年間というのは世界最高齢から算出した年数のようです)
⑤完成した遺言書の正本と謄本を受け取り、公証人に手数料を支払う
事前の打ち合わせの際に金額は教えてもらえますので、当日は現金を持参するようにしましょう。
おつりも用意してもらえますが、ちょうどの金額を準備しておいた方がスムーズです。
これで公正証書遺言が完成します。
事前の準備ややり取りには時間がかかりますが、当日は30分程度で終わることが多いです。
(※当センターがお手伝いした場合の時間ですので、専門家のサポートがなければもう少しかかることもあるかもしれません)
2.こんなにある!公正証書遺言の7つのメリット
公正証書遺言には、とにかくメリットがいっぱいあります。
(当センターで遺言書を作成するなら、絶対に公正証書遺言をオススメしています!)
以下、メリットを7つ挙げてご紹介します。
1.とにかく安全・確実な遺言方法
少しご説明しましたが、「公証人」は法務大臣から任命を受けた法律のプロフェッショナルで、実際には法律実務の経験が長い元裁判官や元検察官などが多く務めています。
そして「公正証書」とは、法律のプロである公証人が、法令等の不備がないかどうかを確認しながら作成する文書のことを言います。
そのため、自筆証書遺言と違い、公正証書遺言が法的に無効となることはほぼありません。
(※公証人が作成した文書が全て公正証書ということではなく、「公証役場」というところで所定の手続きを経て作成した文書が公正証書です)
詳しくはこちらをご覧ください。
2.遺言者の自筆が不要
自筆証書遺言であれば、財産目録部分を除く全ての個所を全文自筆で記載する必要があります。
手が不自由な人だけでなく、高齢の人にとって字を間違えず法的な文章を書くのはなかなか難しい作業だと思います。
しかし公正証書遺言であれば、そもそも文章を公証人が作成するため、自分で書く部分は署名程度で済みます。
(※全く字が書けない人や目が見えない人でも公正証書を作成する方法はありますので、事前の打ち合わせ時に公証人にその旨を伝えましょう)
3.遺言書の検認手続が不要
自筆証書遺言の場合、遺言者の死後、相続手続きを始める前に速やかに家庭裁判所に遺言書を提出して「検認(※)」を行う必要がありますが、公正証書遺言では検認手続きが不要です。
遺言書を作成する時点で、すでに公証人によって証明された書類であるため、そのまま正式な遺言書として使用し手続きを進めることができます。
スムーズに相続手続きができるため、ご遺族の精神面においても大きなメリットになります。
【※検認とは】
検認とは、その遺言書において必要な形式が整っているかを確認し、家庭裁判所にその遺言書の履歴を残す一連の作業のことです。
そうすることで、相続人が遺産分割を進める時に、万が一遺言書に改ざんや破棄があったとしても、家庭裁判所に履歴があるために問題なく進めることができます。
4.公証人が出張して作成も可能
何かしらの理由で公証役場を訪れるのが難しい場合(足が不自由、長期入院中等)、公証人に出張して来てもらい、遺言書を作成することができます。
ただし、出張してもらう場合は、公証人に日当と交通費を支払う必要があります。
具体的にどれぐらいの費用が加算されるかは、出張場所と公証役場の距離、移動にかかる時間なども影響するため、作成を依頼する公証役場に問い合わせして確認しましょう。
(一般的には日当が1~2万円程度、交通費は実費ぐらいのイメージです)
5.遺言書の原本は公証役場に保管される
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、文章の改ざんや破棄などのリスクがゼロです。
例えば、仮に遺言書の内容に納得できない人がいて、持ち帰った公正証書遺言(謄本)を書き換えたり捨てたりしても、そもそもの原本が公証役場にあるため、もとの遺言内容(遺言者の意思)を確実に伝えることができます。
万が一紛失した場合でも、公証役場で遺言書の謄本を改めて発行できるため、安心度が高いです。
6.遺言書原本の二重保存システム(デジタル保存)がある
万が一、震災等により公証役場で遺言書の原本が焼失(消失)してしまっても、平成26年(2014年)以降に作成された公正証書遺言については電子データ化されているため、復元することが可能となっています。
7.遺言登録・検索システムが存在すること
平成元年(1989年)以降に作成された公正証書遺言については、全国の公証役場から検索をすることができます。
ただし、検索できる人は相続人や利害関係人に限られており、遺言者の死後でないと検索できません。
生前に「遺言者が公正証書遺言を作っていたはずなのに見当たらない」というような場合は、公証役場で検索してみましょう。
当センターが考える公正証書遺言の一番のメリットは、やはり遺された家族(相続人)がスムーズに手続きを進めることができる点です。
さらに遺言執行者を指定しておくと、執行者が単独で、遺言の内容に沿って手続きを進めていくことができます。
相続人の中に高齢の方や、平日に仕事をされている方がいる場合は特に有益かと思います。
【公証証書遺言の作成を専門家に依頼するメリット】
公証人は法律のプロフェッショナルですが、公正証書遺言の作成において、当センターのような「相続の専門家」を介することにも大きなメリットがあります。
それは、
- 財産を「どうしたいか」のご相談への対応
- 財産を「どうするのがベストか」のご提案
- 必要書類の収集
- 公証人との事前の打ち合わせ
などを当センターが対応するため、遺言者となる人は、遺言作成日当日に公証役場に行くだけで良いことになります。
(実際、公証人とのやり取りには日数がかかり、何度も公証役場に足を運ぶ場合もあります。当センターでは公証人との打ち合わせもご本人様に代わって行います。)
単に遺言書に「財産をどうするか」を記載するだけなら深く考える必要はないかもしれませんが、ご自身の「想いを実現する」ためにも、当センターのような専門家を介して想いの詰まった「公正証書遺言」を作成する方も多くいらっしゃいます。
ご依頼、ご相談はお気軽にお問い合わせページからご連絡ください。
3.公正証書遺言の唯一のデメリットは費用がかかること
公正証書遺言の作成には手数料がかかります。
それは公証人手数料令という政令で定められており、遺言する財産の額によって変わります。(公証人手数料令9条)
公証役場に支払う手数料 | |
---|---|
遺言書に書く財産の合計 | 手数料 |
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 7,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
※手数料は財産を譲り受ける人ごとに計算し、それぞれの手数料を合計したものが総額になります。
※遺言書に記載する財産の総額が1億円未満の場合、11,000円が加算されます。
具体的に数字を挙げてご説明しますと、遺言者である母が、娘に3,200万円、息子に1,500万円の預金を相続させる旨の遺言書を作成する場合、
【公証人手数料】
①娘分:29,000円
②息子分:23,000円
③1億円未満の加算:11,000円
の合計で、63,000円が公証役場に支払う手数料になります。
4.公正証書遺言に関するよくあるQ&A
公正証書遺言の作成にあたり、よくご相談いただく質問をまとめました。
その他ご質問やご相談も、お気軽に当センターへお寄せください。
ここでは5つご紹介します。
①しゃべられない人でも公正証書遺言は作れますか?
生まれつきしゃべれない人や、病気等でしゃべれなくなった人でも、公証人の面前で遺言の趣旨を筆談することにより、公証人にその意思を伝えることができる場合、公正証書遺言は作成可能です。
また、手が不自由で筆談等ができない人でも、通訳を通じて作成することもできます。
②証人2人を用意することが難しいのですが、どうすればいいですか?
公正証書遺言の成立要件に証人2人が必要になりますが、証人になれる人は限られています。
準備できない場合は公証役場で紹介してもらうことができるので、公証役場に確認してみましょう。
※ただし公証役場で証人を紹介してもらうときは、証人の日当が発生することが多いです。
③どこの地域の公証役場で作れますか?
公正証書遺言は、お住まいの地域の公証役場以外でも作成することができます。
※ただし、公証人に病院や自宅に出張してもらう場合は、その地域(出張先)を管轄する公証役場の公証人に依頼することになります。
④公証役場によって費用は異なりますか?
いいえ、公正証書遺言の作成費用は公証役場によって変わることはありません。
遺言の内容によって金額が決められています。
(詳しくは3章をご覧ください)
⑤どんな人が遺言書を作るべきですか?
基本的には全ての人が遺言書を作った方が良いと考えますが、特に必要性が高いと思われるのは下記の場合です。
- 夫婦の間に子どもがいない場合
- 再婚の夫婦で、前婚に子どもがいる場合
- 相続人以外に介護等されて、その人に財産をあげたい場合
- 婚姻をしておらず内縁関係の夫婦の場合
- 自営業をしており、特定の相続人に家業を継がせたい場合
- 子や兄弟がおらず、相続人がいない場合
あくまでも一例ではありますが、これらに該当する方は遺言書を作成しておかないと、想いを実現できなかったり大切な人に財産を譲ることができない可能性があります。
(2.こんな人にオススメ!遺言書を書くべき8つのケースへリンクします)
5.まとめ
公正証書遺言を作成するには公証人とのやり取りが必要で、時間も費用もかかります。
いざ遺言書を作ろうかなと思った時、やはり面倒くさいのはイヤだと思われるかもしれません。
ですが、実際に当センターで様々な相続手続きを代行してきて感じるのは、相続が発生した際にスムーズに手続きを進められるのは、圧倒的に公正証書遺言があった場合です。
大変だった自筆証書遺言の検認手続きが終わり、「さぁ相続手続きを進めていこう!」という段階で、銀行や法務局で「この遺言書では手続きできません」と言われる場面を何件も見てきました。
ご自身の想いを遺していく家族にしっかりと伝えるためにも、可能な限り公正証書遺言を作成することをお勧めします。
そして、遺言書はトラブルを回避することだけを目的に作るわけではありません。
たとえ円満でご家族であっても、遺言書を作成してしかるべき準備をしておくことで、いざ相続が開始したときに驚くほどスムーズに手続きを進めることもできます。
遺言書は自分のためではなく、遺していく大切な人のため。
公正証書作成のサポートは、当センターでも承りますので、お気軽にご相談ください。