相続の放棄とは、「最初から相続人ではなかった」となることで、家庭裁判所で手続きします。
- 家庭裁判所でする「相続の放棄の申述」の概要
- 「相続放棄するとはこういうこと」について、10個注意点を紹介
→一度、相続の放棄の申述をすると撤回できないため、悩んだ場合は専門家に相談を!
人が亡くなると相続が発生します。
亡くなった人の相続人は、
- 相続する (不動産や預貯金などの財産を引継ぐ)
- 相続しない(財産を引継がない)
の選択を迫られます。
(民法上では「相続の承認」「相続の放棄」といいます)
多くの相続人は、相続する(相続の承認)を選びます。
しかし下記のような場合、
- 亡くなった人(被相続人)に多額の借金やローンがある
- 他の相続人と普段から付き合いがなく、関わりたくない
- 相続人の内、特定の人に全て相続させたい
このような理由で相続しない(相続の放棄をする)を選択する人もいます。
相続の放棄をすることは、つまり「最初から相続人ではなかった」となることで、家庭裁判所で手続きします。
どういう人が手続きできるのか、相続放棄をするとどうなるのか、正しく理解したうえで
相続放棄をするようにしましょう。
この記事では、この【相続の放棄】について解説します。
実際に相続が発生し、「相続するかどうするか」の判断の際にお役立てください。
1.相続放棄とは|相続の放棄の申述の概要
相続の放棄について、民法上では
「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない」
とされています。
そして、相続の放棄をした人は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされ、被相続人(亡くなった人)の財産を引き継ぐ権利がなくなります。
- 相続放棄ができる人
手続きができるのは、各相続人です。
※相続人全員で手続きする必要はありません。
相続の放棄は、各相続人の意思に委ねられています。
- 相続放棄の手続き場所
被相続人(亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
※どこの家庭裁判所でもよいわけではありません。
- 相続放棄の申述期間
自分のために「相続の開始があったこと」を知ったときから3か月以内です。
※被相続人が亡くなった日から3か月ではありません。
- 相続放棄に必要な書類
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票除票等
・戸籍謄本
などです。
>>相続放棄に必要な戸籍はどれ?【亡くなった人】別にイラストで解説(まごころ相続コンシェルジュ)
- 相続放棄に必要な費用
・収入印紙(放棄をする人1人につき800円)
・郵便切手(放棄をする人1人につき84円×3枚、10円×1枚)※一例です
※申述する家庭裁判所によって切手の金額が変わるため、事前に確認しましょう。
必要書類が揃えば、管轄の家庭裁判所へと手続きをしましょう。
家庭裁判所へ直接持参することも、郵送での手続きでもできます。
詳しくは家庭裁判所のHP(相続の放棄の申述)をご確認ください。
申述書のダウンロードもこちらから可能です。
2.相続放棄するとはこういうこと!10の注意点
「相続の放棄」は、各相続人が単独で決断し、手続きを進めることになります。
概要は1章でご紹介しましたが、ここでは
- 相続放棄をする際の注意点
- 相続放棄をする際に知っておいた方がよい点
について、合計10個お伝えします。
※相続(放棄も含む)全般は、相続関係や相続財産によるため、詳しくは行政書士や司法書士などの専門家にも確認したうえで進めていくとよいでしょう。
2-1.相続放棄をするとプラスの財産も相続できなくなる
家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、借金やローンなどのマイナスの財産はもちろん、預貯金や不動産などのプラスの財産についても相続することができなくなります。
また、一度相続の放棄をすると撤回ができないため、よく考えてから手続きをするようにしましょう。
2-2.【3か月】の期間を過ぎてしまうと相続放棄できなくなる
相続放棄の期間は、民法で
「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければならない」
と定められています。
(※この3か月を熟慮期間といいます。)
この期間を過ぎてしまうと、家庭裁判所で相続の放棄を受付けてもらえない可能性もあるため、なるべく早めに準備をしましょう。
もし、この期間内に「相続する」「相続しない」を決められない場合は、家庭裁判所で「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の手続きをすれば熟慮期間を伸ばせる可能性があります。
詳しくは家庭裁判所のHP(相続の承認又は放棄の期間の伸長)をご確認ください。
2-3.相続放棄をしたことの連絡は他の相続人等にいかない
家庭裁判所で相続の放棄について
- 申述しても
- 受理されて相続放棄が完了しても
他の相続人に通知等がいくことはありません。
(つまり、自分が相続放棄をする(した)ことは、自分が伝えない限り人に伝わることはありません。)
また相続同順位の相続人が全て相続の放棄をして、相続権が次順位に移った際にも、家庭裁判所から連絡がいくことはありません。
※もちろん、ご自身が相続の放棄をしたことを、他の相続人に通知する義務もありません。
ですが、親しい他の相続人がいる場合や、次順位の相続人に迷惑をかけたくない場合は、個別に報告の連絡をすると親切です。
※相続権のある相続人には順位があります。
相続放棄により次順位へと相続権が移ります。
2-4.自分が相続放棄をしても、下の世代に相続権は移らない
よく「自分が相続放棄をしたら、自分の子に相続権がまわりますか?」という質問をお受けしますが、相続放棄をした相続人の下の世代には相続しません。
≪例≫
祖父(被相続人)が亡くなり、父(相続人)が相続放棄をしても、子は相続人になりません。
よく間違われる「代襲相続」との違い
代襲相続とは、
「被相続人が亡くなったときに、すでに相続人が相続権を失っているときに、その相続人の下の世代(子や孫など)に相続権が移ること」
です。
代襲相続をするときの条件は死亡、欠格、廃除のいずれかになります。
先ほどの例で言うと、
祖父(被相続人)が亡くなった時点で、すでに父(相続人)が、
- 死亡している
- 欠格事由にあてはまる
- 廃除されている
のいずれかの場合、孫に相続権が代襲し、孫が相続することになります。
※ただし、相続人が(亡くなった人から見て)父母や祖父母といった直系尊属の場合は、父母が相続放棄をした場合は祖父母へと相続権が移ります。
2-5.相続放棄は相続開始前にはできない
相続放棄は、被相続人が亡くなり相続が始まってからすることができます。
(つまり、相続開始前=生前に相続放棄はできません。)
そのため、相続しないのが決まっているからといって、相続が始まる前に家庭裁判所で相続放棄の申述をしても認めてもらえません。
2-6.単純承認にあたると相続放棄できない
単純承認とは「被相続人の財産(負債も含む)を相続する」ということです。
自分では相続放棄するかもしれないと思って行動していたとしても、下記のような場合は「単純承認した」とみなされます。
- 熟慮期間中(相続人であると知ってから3か月以内)が経過したとき
- 被相続人の財産を処分したとき
- 相続の放棄をした後でも、相続財産を隠して使ったとき
このようなときは相続の放棄ができなくなる可能性があります。
相続の放棄を少しでも考えている場合は、気を付けましょう。
実際の相続の現場の話をしますと、「クレジットカードの請求が来た」「公共料金の督促がきた」など、支払いに関する連絡があった場合は放っておくことが怖くて対応してしまう人もおられます。しかし、相続放棄が受理されればそれも含めて一切支払いの義務はありません。
むしろ、その支払いをしてしまったことが原因で、相続放棄が無効になってしまうおそれもあります。
あくまで可能性の話ですが、もしそうなったら取り返しがつかないことになるかもしれませんよね。
もし既に受け取ったり、支払いをしたり、契約の解除等いわゆる「処分行為」をしてしまった場合は、すぐに専門家に相談することをおすすめします。
2-7.未成年が相続の放棄をする場合は代理人が必要になる
未成年者が相続の放棄をする場合は、「未成年の法定代理人(親など)」が代理で申述する必要があります。
そして未成年者とその法定代理人(親など)がお互いに相続人の立場であるときは、未成年者のために家庭裁判所で特別代理人を選任する必要がある場合があります。
2-8.成年被後見人が相続の放棄をする場合は代理人が必要になる
相続人が成年被後見人(※)の場合、成年後見人が代理で相続の放棄を行います。
(※成年被後見人とは、認知症などで意思能力が低下し成年後見人が付いている人のことです)
ただし、お互いに相続人の立場であるときは、成年被後見人のために家庭裁判所で特別代理人を選任する必要がある場合があります。
2-9.相続人が海外在住の場合は相続放棄に必要な書類が変わる
海外に在住していると、日本に住所登録がない場合があります。
その場合は、住民票の代わりにサイン証明書や在留証明書などが必要になります。
これらは、海外の日本大使館や領事館で取得することができます。
ただし、海外に住んでいるからといって、基本的に相続放棄の期限は変わりません。
相続放棄の手続きは、通常郵送でも受付けているところがほとんどですが、海外からの場合は対応していない家庭裁判所もあるため、必ず事前に確認しましょう。
※海外在住で日本に帰国する予定がない場合は、司法書士等の専門家に頼むのもひとつです。
2-10.相続放棄をしても最低限のリスクは残る可能性がある
相続の放棄をしたからといって、全ての責務から完全に逃れられるわけではありません。
民法では、下記のように定められています。
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同じ注意をもって管理を継続しなければならない
つまり、相続の放棄をしたら、他の相続人や次順位の相続人の人が相続財産を管理できるように引き継ぐようにしましょう。
※2023年4月に法改正がありました!
2023年4月の法改正により、上記条文が以下のように変更になりました。(太字の部分が重要!)
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない
つまり、相続財産の保存義務(法改正に伴い「管理義務」から呼称が変更されました)は、「現に占有している人」にあるということです。
(例)同居していた親を亡くした子が相続放棄をし、相続権が(親の)兄弟姉妹に移ってその兄弟姉妹も相続放棄をした場合
・法改正前→最後に放棄をしたその兄弟姉妹に管理義務あり
・法改正後→そこに住む「現に占有していた」子に保存義務あり
3.まとめ
相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月以内に手続きする必要があります。
2章|相続放棄するとはこういうこと!10の注意点でご紹介したような注意点がありますので、よく検討したうえで決断しましょう。
※一度相続放棄の申述をすると、撤回はできません。
「相続放棄したいけど、どうなんだろう・・」と悩まれる場合は、専門家にご相談することをお勧めします。)
そして、「相続放棄をする」と決まれば、必要書類をそろえて家庭裁判所に申述します。
その際、戸籍が必要です。
亡くなった親の相続放棄であれば、必要戸籍も少なくスムーズに手続きを進められるでしょう。
ですが、相続関係が複雑な場合は戸籍の収集に時間がかかったり、そもそも財産がわからず財産調査をしてから相続するか/しないを決めたりとなると、思っていた以上に時間がかかることがほとんどです。
相続放棄で迷われた場合は、ぜひ当センターにご相談ください。