孤独死の場合、後になって死亡していたことが確認されるため、具体的に「○月○日」と死亡日を特定されることが少ない
- 孤独死のケースで戸籍に記載される死亡日の例と、その場合の具体的な相続開始日
- それに伴う「相続放棄」や「相続税の申告」の期限の考え方
- 「相続の開始を知った日」の考え方
孤独死の連絡を受け、自分が相続人であることを知ります。
そして、相続についていろいろ調べていたところ、手続きには期限があることを知ります。
その期限が具体的に何月何日なのかを確認しようと戸籍を見たら、死亡日の欄には「推定令和4年2月1日から10日までの間」という記載が。
「相続開始日」は…いつ?
相続放棄の期限は?
間に合う?
今まさにこのような状況で、この記事をご覧いただいているかもしれません。
「相続開始日」は相続における様々な期限を確定するうえで非常に重要な日付です。
一般的には病院で医師の診断を受けて死亡と判断されるため、その死亡日がまさに「相続開始日」になります。
しかし、孤独死の場合は自宅等で倒れている状態で発見され、後になって死亡していたことが確認されますので、具体的に「○月○日」と特定されることが少ないです。
この記事では孤独死の場合に死亡日がどのように記載されるのか、当センターが今まで実際に見てきた戸籍をもとにご紹介し、それぞれのケースでの相続開始日を具体的にお伝えします。
相続開始日がわからず不安な方のためになりましたら幸いです。
目次【本ページの内容】
1.孤独死のケースの死亡日の記載例と相続開始日
冒頭でお伝えしました通り、孤独死の場合は「推定令和4年2月1日から10日までの間」といった感じで戸籍に死亡日が記載されます。
このような記載になる理由は、発見された時点では既に死亡していて、検案や解剖によって死因はある程度特定できたとしても、具体的に何月何日の時点で死亡したかの特定までは難しいからです。
そしてこの場合に困るのが「相続開始日」です。
例えば「推定令和4年2月1日から10日までの間」の場合であれば、
- 2月1日
- 2月10日
- 2月5日(ちょうど中間)
- もしくはそれ以外
のどれになるのでしょうか?
結論から先にお伝えしますと、孤独死の相続開始日は、戸籍に記載されている日付の最終日になります。
ここでは具体的な記載例を挙げ、それぞれの相続開始日をお伝えします。
①推定令和4年2月1日 死亡
「推定」という言葉がついていますが、具体的な日付が入っていますので、相続開始日は2月1日になります。
②令和4年2月1日時刻不詳 死亡
こちらも時刻まではわからないものの、日付は特定できている状態ですので、相続開始日は2月1日になります。
③令和4年2月1日から10日までの間 死亡
一定期間を定めての死亡の記載です。この場合はその期間の中で最終日、つまり2月10日が相続開始日になります。
④令和4年2月1日から10日間
こちらは上記③と記載の仕方は異なるものの、結局は2月1日から2月10日までの間ということです。この場合は期間の中の最終日、2月10日が相続開始日です。
⑤令和4年2月頃 死亡
日付の記載がなく、月だけが書かれている状態です。また、「頃」という記載が気になりますが、この場合もやはりその期間中の最終日になりますので、2月の最終日ということで、2月28日が相続開始日になります。
役所によって記載の仕方が異なりますので文言などが少しずつ異なるかもしれませんが、具体的な日付の特定がない場合はその期間の最終日と覚えておけば大丈夫です。
認定死亡とは?
孤独死とは異なりますが、認定死亡という言葉があります。
たとえば、①ボートから転落→②巡視艇でも発見できず→③海上保安庁が死亡の報告を役所に行う→④ご家族から死亡届が提出される、といったケースでは複数の日付が出てきます。
この場合、③があったことを知った日が様々な期限のスタートになります。
(※海上保安庁が死亡の報告を役所に行った日ではありません)
2.それぞれの記載における相続放棄・相続税申告の期限
相続開始日がわかればそこを起算日として期限を考えることが可能です。
相続における重要な期限といえば
- 相続放棄:3か月以内
- 相続税の申告:10か月以内
が挙げられますので、第1章の具体例を使ってそれぞれの日付を考察してみます。
①推定令和4年2月1日 死亡
②令和4年2月1日時刻不詳 死亡
相続開始日:令和4年2月1日
相続放棄:相続の開始を知った日から3か月以内
相続税申告:相続の開始を知った日から10か月以内
③令和4年2月1日から10日までの間 死亡
④令和4年2月1日から10日間
相続開始日:令和4年2月10日
相続放棄:相続の開始を知った日から3か月以内
相続税申告:相続の開始を知った日から10か月以内
⑤令和4年2月頃 死亡
相続開始日:令和4年2月28日
相続放棄:相続の開始を知った日から3か月以内
相続税申告:相続の開始を知った日から10か月以内
あれ?
相続開始日は記載の内容によって異なりますが、どれも全て期限は同じですよね?
そうです、相続放棄、相続税の申告のどちらも「相続の開始を知った日」が起算日(期限の開始日)になりますので、戸籍上でどのように記載されていても変わらないということです。
ただ、その「相続の開始を知った日」をどのようにして証明するかもポイントですので、客観的に説明できる情報がなければ「相続開始日」を起算日として考えておいた方がより確実です。
>>「相続開始日」と「相続の開始を知った日」について詳しくは5章へ
3.その他、孤独死のケースで問題になる様々な期限
第2章|それぞれの記載における相続放棄・相続税申告の期限でお伝えしたのは相続における代表的な期限(相続放棄、相続税の申述)だけでしたが、それ以外にも期限のあるものがありますので、参考までお伝えしておきます。
3-1.準確定申告
確定申告はご存知だと思いますが、亡くなった人の所得についても確定申告する必要があります。
ただ、亡くなった人の確定申告に限っては通常の確定申告(例年2月15日開始)の期限ではなく、死亡日から4月か以内にしなければならないと定められています。
(国税庁のHPへ)
なぜなら、死亡日以降に所得が増えることはあり得ず、1月1日から死亡日までの所得を計算することで、翌年の2月15日を待つことなく確定申告することができるからです。
相続開始日が明確になることで、準確定申告の期限もはっきりわかります。
3-2.不動産の賃貸や売買における告知義務
不動産の賃貸や売買においては重要事項の説明という手続きがあり、その中で必ず告知しなければならない事項が定められています。
(いわゆる告知義務というものです)
最近テレビ番組などでも耳にするようになった「心理的瑕疵」がまさにそれに該当しますが、心理的瑕疵といっても様々あり、他殺や自殺等もそこに含まれます。
孤独死という事実が心理的瑕疵に該当するかどうかは状況等によって個別の判断になります。しかし孤独死が告知義務に該当するのかについては、国土交通省のガイドラインでは孤独死と他殺・自殺が区別され、孤独死の場合は「賃貸」「売買」どちらも「原則告げなくてもよい」という方向性になっています(2022年時点)。
しかし、消費者保護の観点では、「事前に聞いていれば契約しなかった」と言われてトラブルになる可能性もありますので、実際の現場レベルではやはり告知をするという不動産業者も多いです。
(むしろ、そういった真摯な対応の不動産業者を選ばれることをオススメします)
なお、他殺・自殺の告知義務についてはガイドラインで「事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後は告げなくてよい」とされており、ただ、「相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は告げる必要あり」という補足もあります。
心理的なハードルを明確な日付で区分できるものではないのは当然ですが、相続開始日が特定されることで、この「概ね3年」という期間もある程度明確に参考にすることができます。
4.孤独死の場合の「推定」の死亡日は登記事項に載ってしまう
他の誰かが亡くなった人の戸籍を取得して「推定」の死亡日を確認することはまずありません。
戸籍はもちろん個人情報ですので、相続人など特定の人しか取得することはできないからです。
しかし、不動産の登記情報は法務局で誰もが取得することができますので、例えば今お住まいのご自宅の登記情報を他の人が取得することも可能です。
(地番や所有者の名前など最低限の情報を知っていることは大前提ですが)
この登記情報ですが、不動産の面積や所在地以外にも現在の所有者の情報、そして「過去の」所有者の情報も全て載っています。
お父さんから子どもへ相続によって引き継がれた不動産であれば、お父さんが所有していたときの情報(名前と住所)、子どもに引き継がれた原因(この場合は「相続」)まで載っています。
そして、その「原因」には日付まで明記されているのです。
具体的には
所有者 東京都千代田区丸の内1-1-1
まごころ太郎
と記載されています。
この「令和4年2月1日から10日までの間相続」という記載を見れば、孤独死であることが一目瞭然です。
つまり、告知義務がないからといって事実を隠したとしても、登記情報を確認することで孤独死などで死亡したことがわかるということです。
5.「相続開始日」と「相続の開始を知った日」は異なる
本記事以外にもたくさんの情報を調べておられるかと思いますが、相続放棄や相続税の申告に関して「相続開始日」や「相続の開始を知った日」などという言葉が出てくることにお気付きでしょうか?
本記事では「相続開始日」についてお伝えしてきましたので、「相続の開始を知った日」との違いを少し掘り下げてご説明しておきます。
5-1.一般的には同じ日になることが多い
「相続開始日」と「相続の開始を知った日」ですが、一般的には同じ日になることが多いです。
なぜなら、病院で最期を迎えた場合、医師がその死亡を確認して死亡診断書を作成しますが、その時点でご家族が立ち会っていたり、もし立ち会えなかった場合でもすぐに病院から家族や親族に対して連絡が入るからです。
この状況であれば、「亡くなった日」と「その事実を知る日」は同じ日ですよね。
- 亡くなった日=相続開始日
- その事実を知った日=相続の開始を知った日
ですので、つまり「相続開始日」と「相続の開始を知った日」は同じ日になります。
5-2.孤独死のケースでは別の日になることが多い
では孤独死の場合はどうかというと、孤独死という時点で最期を看取った人がいない状況です。
警察などによって既に死亡している状況で発見され、死体の検案があり、推定の死亡日が確定します。
この場合の「相続開始日」は2章(それぞれの記載における相続放棄・相続税申告の期限)でお伝えした通りですが、ではその「相続開始日」に相続人の方が死亡の事実を知っていたかというと、当然知らないはずです。
ですので、孤独のケースでは「相続開始日」よりも「相続の開始を知った日」が後になります。
「相続の開始があった日」がいつになるのか、またそれを証明するには何が必要かについては、警察から連絡を受けた場合はその日、そしてその着信をメモや携帯のスクリーンショットで保存しておくことをお勧めします。
相続放棄など期限のある手続きをする際に、その日付の根拠を求められた場合に説明ができるように準備しておく方が賢明です。
6.まとめ
孤独死のケースにおける相続開始日についてご説明してきました。
孤独死という特別な状況ですので、戸籍に記載される死亡日も少し普通とは違った記載になります。
期限のある手続きでその期限を間違えることがないよう、くれぐれもご注意ください。
特に相続放棄については、1日でもその期限を過ぎると原則として手続きが不可となります。