共同相続人の方が納税をしなかったときのご相談ですね。
相続税の申告でよく勘違いされるのは、「申告=納税」ではないということです。
「申告」はあくまでも税務署へ書類を提出すること、「納税」はその申告書に記載の税額を納付することですので、現実的には申告書だけ提出し、そのまま納税をしないという状況は起こり得ます。
今回はまさにそういったケースになってしまった場合のご相談で、しかもご自身は納税済、共同相続人の一人が納付をせずに連絡が取れなくなったという状況です。
では、今回のご相談のポイントを挙げておきますと、
- ご相談者様は納税をすませていること
- 義理のご兄弟と連絡がつかないこと
- ご相談者様に何か影響が出てくるのか
というところになるかと思います。
それでは、具体的にご説明させていただきます。
1.相続税はみんなで支払わないといけない!?連帯納付の義務
結論から申しますと、今回のケースでは、相続税を支払う必要があります。
「いや、だから私の分はもう支払いましたよ?」という声が聞こえてきそうですが…少し難しい言い方で一旦説明しますね。
まず、相続税法では、
- 同一の被相続人(お亡くなりになられた人)から相続または遺贈により財産を取得した全ての人は、
- その相続または遺贈により取得した財産に係る相続税について、
- その相続または遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、
- 互いに連帯納付の義務がある
とされています。
分かりやすいように言い換えます。
要は、その納めない人に代わって他の相続人が相続税を納める必要があるということです。
この仕組みを「連帯納付の義務」といいます。
今回の、ご相談に照らし合わせますと、
- 遺産分割協議書が成立して相続によってそれぞれ財産を取得している
- ご相談者様はご自身の納税は済ませている
- 義理の兄と連絡がつかず、納税がされていない
以上のことから、ご相談者様は以下の金額を義理の兄に代わって納税する必要があります。
[ 計算式 ]
相続した財産の金額-債務の金額-ご自身で納めた相続税、登録免許税の額
例えば、
- 自分が相続した財産の金額が5,000万円
- 債務が500万円
- 納めた相続税が500万円
のケースで考えてみます。
上記計算式を使うと
5,000万円-500万円-500万円=4,000万円
となり、ご相談者様が義理の兄に代わって 4,000万円を上限として相続税を納付する義務があるということです。
相続した金額を上限としていますので、あくまでも自分のもともと持っている資産を取り崩してまで支払う必要はないということですね。
簡単に言えば、相続した範囲で払いなさいということです。
なお、納税を滞納したことによって生じる延滞税を加えてご相談者様が代わりに納付する必要がありますので、私は知らない!と言って放置することは反って自分の首を絞める事にもなりますので注意が必要です。
ただ、実際に税務署から連帯納付の連絡がある場合には、まず、本来の納付義務者である義理の兄に対して納付の督促がされることになります。
(そもそもの支払い義務はその人にあるわけですので、当然ですよね)
そして、督促がされた後1か月経っても納付されない場合に、連帯納付義務者であるご相談者様に通知が届くことになります。
この通知によりご相談者様が代わって納税することになりますが、義理の兄がそれを知らずに遅れて納付してしまったときは二重で納付することになってしまいますので、ご相談者様が納税される前には再度連絡を取ってみることをお勧めします。
(二重で支払った分はもちろん還付を受けることができますが、それはそれでまた手続きが複雑になりますので…)
2.払った分は返してもらえる?求償権について
本来の納付義務者である義理の兄に代わってご相談者様が相続税の納付を行った場合には、「求償権(きゅうしょうけん)」が発生します。
求償権とは、債務を弁済すべき人に代わって弁済をしたことにより、債務を弁済した人が本来弁済すべき人に対して肩代わりした分の返済を請求することができる権利とされています。
債務とか弁済とか難しい言葉をたくさん使いましたが、要は「代わりに払った分を返して!」という権利です。
今回のケースでは、義理の兄に代わってご相談者様が納付した金額分の返済を請求することができますので、義理の兄に対して連絡を取り、しっかりと返済をしてもらいましょう。
と言っても、そもそも納付をしないような人ですので、そんな人が素直に連絡に応じてくれるかというと難しいかもしれませんが…
また、たとえ連絡が取れたとしても、「お金の話をすると急に激高したりして…」という感じで、お金を返して欲しいとはなかなか言い出しにくいというケースもあるかと思います。
そんな時、もう返してもらうこと自体をあきらめてしまう、つまりこの求償権の行使せずに権利そのものを放棄してしまうことも可能ですが、その場合はその納税した金額に相当する金銭を贈与したとみなされてしまい、義理の兄に対して贈与税が課せられてしまう可能性もあります。
改めて考えてみると当然といえば当然のことなのですが、贈与税は受け取った側(今回のご相談では義理の兄)に納税の義務がありますので、それを怠ると今度は贈与税の延滞税などを義理の兄は負担しなければならなくなります。
想像もしていなかったところでいろいろなペナルティが課される可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。
3.その他の連帯納付の義務
今回のようにご相続によって発生する相続税以外にも、
- 被相続人自身が生前に相続税や贈与税を納めずに亡くなってしまった場合
- 相続や贈与により財産を取得した人がその財産を他の人に贈与などをした時
でも、連帯納付の義務が生じることもあります。
よかれと思って取った行動で税金が余計にかかってしまうケースもありますので、事前に専門家に相談されることをお勧めします。
後になってびっくりする金額の請求が来た…では困りますからね(汗
4.まとめ
- 誰か1人でも納税しなければ、他の相続人がその納税の肩代わりをしなければならない。
- 求償権が発生した場合には、行使しないと贈与税が生じる可能性がある。
- 財産を贈与した場合などでも、連帯納付の義務が生じる可能性がある。