通勤中の思いがけない事故によってご主人を亡くされた奥様からのご相談です。
大切なご家族を亡くされたということだけでも辛くて、悲しくて、やりきれない想いだと思いますが、とにかくすぐにしなければならないのが「お葬式」です。
最近は家族葬や直葬など小規模なお葬式も増えてきていますが、それでもやはり数十万円単位、人数や規模によっては100万円や200万円以上のお金がかかるお葬式も少なくありません。
では、そんな大金をすぐに出せるかというと…
生活資金や預金をお亡くなりになられたご主人名義の口座で管理されていた場合はさらに大変ですよね。
今回のご相談は、そんなお金に関するご相談です。
それでは、詳しくご説明させていただきますね。
1.通勤中の事故による死亡保険給付とは
「通勤中の事故」による死亡ということは、労災保険の適用事業所に勤務されていた場合、死亡に関する保険給付が行われます。
一般的にはお亡くなりになられた方のご家族の迅速な生活保障となる「遺族(補償)給付」があります。
この「遺族(補償)給付」は、年金または一時金どちらかの形で支給されます。
今回のご相談者様のように、ご家族が急にお亡くなりになるということは、葬儀であったり、完済していない支払いなどを終えるために、一度に多くの費用が必要となることが多いです。
そんなとき、残された家族の助けとなるのが「遺族(補償)年金前払一時金」制度です。
2.遺族(補償)年金前払一時金
なんだか難しそうで長い言葉ですが、簡単にご説明いたしますと、本来年金として毎月支給される「遺族(補償)年金」を、一度だけ前払金として先に支給してもらうことができる制度です。
これ、すごく便利じゃないですか?
年金だったら毎月一定の金額が受け取ることになりますが、それを一時金としてまとめて受け取ることができるんです。
しかもその金額は、受け取る権利がある方が希望する金額で支給してもらうことができるんです!
(もちろん受け取れる年金の範囲内になりますのでお間違えなく)
一律で20万円とか30万円とか決まっているわけではなく、自分で選択ができます。
ただ、金額は自由に1円単位で細く設定できるわけではなくて、もちろん基準となる数字が決まっていて、そこから選択する形になります。
具体的なその金額ですが、以下の中から指定ができます。
給付基礎日額の
- 200日分
- 400日分
- 600日分
- 800日分
- 1000日分
で算出される金額です。
「給付基礎日額」ってなに?という声が聞こえてきそうですが、ここでは亡くなられた方が生前受け取っていたお給料の1日あたりの金額ととらえていただければと思います。
尚、この制度は「一時金」というものなので、請求は1回限りになります。
では、例えば給付基礎日額の200日分を一時請求したら、本来もらうべき残りの年金はもらえないのかと申しますと・・・
答えはNO!です。
ご安心ください。
本来は毎月支給される年金ですが、200日分を前払い一時金として請求したとします。
すると、200日分の金額に達するまで、年金としての支給は一旦停止されます。
(一時金として一気にまとめて受け取っていますので、当然ですよね)
その後、残りの金額の年金が従来通り毎月支給される形に切り替わります。
要は、200日分を前払いしてもらったので、普通に毎月支払ってもらった場合に200日分に達するまでの期間は停止し、その後は通常通り毎月支払われるということです。
「亡くなった直後はまとまったお金が必要だけど、一度に全てもらってしまうと先々の生活が心配で…」という方は、ご自身の状況に合わせて金額を設定することができますので安心ですよね。
また、年金として毎月給付を受ける場合、その受給する権利がある方が
「55歳以上60歳未満の障害状態にない、夫、父母、祖父母および兄弟姉妹」
であった場合、60歳になるまで年金を受給する権利は持ちつつも、その支給は停止されます。
このルールを「若年停止」と言います。
まだ若いから必要ないでしょ?という無理やりなルールに個人的には思えますが…
しかし、この前払い一時金制度では、若年停止の対象となっている支給を受けることができない期間でも請求することができる!!
ということが、大きな特徴のひとつです。
上手に活用できれば必要なタイミングで必要な金額だけ受け取ることができますので、非常に良い制度だと思います。
3.支給を受けるための手続き
では、実際に支給を受けるにはどうしたらよいのでしょうか?
詳しくは厚労省にご確認いただきたいのですが、こちらでも要約してご説明させていただきますね。
まず、先ほどもお伝えしましたように、前払い一時金は
同一の事由(=亡くなられた方)につき1回のみ請求
することができます。
よって、原則として、
遺族(補償)年金の請求と同時
に行わなければなりません。
ただし、例外として、遺族(補償)年金の
支給の決定の通知があった日の翌日から起算して1年を経過するまでの間
は、遺族(補償)年金を請求した後でも請求することができます。
請求先(=届け出先)は、
勤め先を担当している労働基準監督署
になります。
重要なポイントを大きな文字で4つお伝えしましたが、大切なところですので、しっかりご確認くださいね。
そしてこの請求ができる期限は、
死亡した日の翌日から起算して2年以内
となっています。
それぞれ期限をカウントする起点となる日(起算日)が異なることにご注意くださいね。
今回のご相談者様は、すぐに必要な金額と先々の生活保障のことを考え、遺族(補償)年金の請求と同時に、600日分を前払い一時金として請求することにされました。
その他、ご相談者様にもお伝えいたしましたが、実は、通勤中(または業務上)亡くなられた場合、労災保険から「葬祭費」として一定の金額を受けることができる制度もあります(こちらに関してはまた別途ご紹介いたします)。
いろいろな制度を知っているかどうかで安心感も違いますよね。
また、今回の遺族(補償)年金前払一時金のように請求できる期限が決まっているものもありますので、「知識として知っているかどうか」が本当に大切です。
なかなか個人の方が全ての制度を把握することは難しいと思いますし、突然の出来事であれば前もって準備しておくということも難しいと思いますので、困ったときはすぐに私たち専門家にご相談くださいね。
4.まとめ
- 通勤中の事故による死亡に関して、年金または一時金どちらかの形で「遺族(補償)給付」がある
- 「遺族(補償)年金前払い一時金」の制度を利用すれば、必要な金額だけ先にまとめて受け取ることができる
- 前払い一時金の請求は「遺族(補償)年金」の請求と同時に1回のみ可能である